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Author:安房
2008年10月、リーマンショックのさなかからインデックスファンド中心の資産運用開始。 以来7年、現在の運用資産残高1000万余(預金等含まず)。 投資関係中心に語ります
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退職給付引当で試される企業の収益力【個別株のファンダメンタルにも影響】 |
過去に、金利の低下で事業会社の会計上の収益にも影響が出ることを指摘した記事を書きました。 一般事業会社にもゼロ金利で意外に影響が出るかもしれませんよ
その後、年度が替わり決算発表が出てきていることにより、改めて解説記事が出てくるようになってきています。 いまさら聞けない!マイナス金利による年金費用の増加とは? (ヤフーファイナンス)
金利下落により企業収益に影響が出るメカニズムは上記2つのリンクで説明されている通りです。 (確定給付年金に言及されていますが、企業が責任を持つ給付であれば退職一時金でも同様のことが起こります)
一方、これに伴ってもう一つ厄介な問題が起こります。 それが税金費用への影響です。 ある意味では、会社の過去及び将来の収益力を測るリトマス試験紙としての機能も果たすものとなります。
引当金繰入れ費用には法人税が掛かる→一時差異の発生 まず、そもそも法人税というのは課税所得に税率を掛けることで税額を算出するものです。 そして課税所得とは益金から損金を引いたものになるわけですが、これが企業会計上の利益と若干不一致なのです。 すなわち、会計上は利益(費用)だが税務上は益金(損金)ではない、あるいはその逆というケースが結構あるのです。
退職給付引当金繰入費用もこれに該当する事例でして、引当金を積んだときには税務上は損金に算入できません。言い換えれば、引当金相当額にも法人税が掛かってしまいます。 その代わり、退職給付を実際に現金で支払ったときには、その支払額が損金になります。このときは、会計上は引当金の取り崩しが起こるだけですから費用は発生していません。 つまり、引当金を積んだ年は会計上の利益に比して多めの税金を納め、取り崩して支給した年には会計上の利益に比して少なめの税金しか納めない、ということになります。 要するに一種の期ずれが起こるわけで、これを一時差異といいます。
なんでこんな事が起こるのか、というと、恐らくは「公平な課税のためには、現金以外の損益をやすやすとは認められない」ということでしょうか。 会計の思想は、適正な期間損益の計算を目的としていますから、今期従業員が働いた事に対応する費用や今期利率が動いたことによる必要準備額の増減は今期の費用に反映させたい。そのための技術が引当金です。
一方で税金を取る側の発想としては、引当金ほど信用ならないものはないわけです。 従業員がいつまで働いて、いつ幾らの退職給付の支払いが発生して、そのときまでの利回りが何パーセントで…なんていうのは全部見積もりでしかないわけですから、会社側が好き勝手にいじろうと思えばいじれてしまう。 これほど利益調整に便利なものもないわけで、そんなものをそのまま税務上の損金に認めていたら適正な課税などおぼつきません。(本業の利益が多いときにばかりたくさん引当金を計上されていたら税金が取れなくなります) そこで、現金の支出があったときにのみ損金算入を認めることにする。こうなれば金額が客観的に明らかですからむやみにいじる余地はなく、適正な課税になるといえます。 おそらくこうした思想によるものだと思います。
一時差異は前払いだから費用からは差し引けるはずだが さて、こうして発生した一時差異というのはあくまで一時的なもので、将来解消されるものです。 すなわち、実際に退職給付を支給したときに、その分だけ税金が減るはずです。 従ってこれは税金の前払いということができます。 「将来の便益が流入するもの」を会計学上では資産といいますが、まさに税金の減少という便益が将来発生しますので、これは資産の定義に立派に当てはまることになります。これを繰延税金資産といいます。 従って、退職給付引当金繰入費用に相当する税額部分は、一旦「法人税」として費用計上されるものの、「繰延税金資産」という資産勘定に振り替えられる。そのために「法人税」(費用)は減少するため、結局は会計上の当期損益のうち引当金繰入が幾らであろうが関係ない(会計上の利益に税率を掛けた税額と一致する)ことになるはずです。
しかし、このような理想的な状態になるのは、過去にも将来にも十分な収益がある強い企業だけです。 というのも、一時差異のすべてを無条件に繰延税金資産に算入することが認められるわけではないからです。
先にも述べたとおり、資産とは、「将来の便益が流入するもの」を言います。 従って、将来の便益が流入しないのであれば資産が計上できません。 つまり、一時差異はあるけれど、将来十分な課税所得が見込めないから税額減少の恩恵が見込めないなんていう場合、それはもはや資産としては架空のものになってしまい、計上するわけには行きません。(このような状態を、「繰延税金資産の回収可能性がない」といいます)
このような考え方のもと、過去数年の利益が十分あって将来も安定的に推移する企業であれば、一時差異を全額繰延税金資産として計上することができますが、利益の実績が十分でなかったり将来見通しが怪しい企業になると、将来数年分に解消される一時差異分しか資産計上が認められません(年度ごとに課税所得がどれだけ発生するかを見積もった上で、その限度内でしか資産計上ができません)。 損失垂れ流し続きであるなど、企業によっては全く資産計上が認められない場合もあり得ます。 資産計上が認められなかった部分は、当期損益の計算上は企業の持ち出しです。税金費用として計上されっぱなしです。
「全部資産計上が認められる」という企業でなければ、資産計上が認められるのは基本長くても5年分程度(例外あり)でして、退職給付に係る一時差異は解消まで数十年掛かるわけですから、持ち出しになる割合はかなり大きくなります。
*このあたり、詳しくは監査法人の資料をご覧ください。 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」及び企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」の概要
数値例 今期、退職給付引当金繰入が金利増減の影響で普段の年より100増えたとします。 税率を30%としますと、仮に一時差異を全部繰延税金資産に計上できる強い企業であれば、繰延税金資産に30計上でき、その分税金費用が減額されますから、当期損益へのインパクトは70で済みます。
あまり強くない企業で、向こう5年分の一時差異しか繰延税金資産の計上が認められない。その間の退職給付引当金の取崩予定が10しかないとなると、繰延税金資産は3だけです。となると、当期損益へのインパクトは97になってしまいます。
ボロボロの企業で、全く繰延税金資産の計上が認められないとなると、100がそのまま当期損益へのインパクトになります。
まとめ 普段の収益力の強弱がなおさら強調されることに 以上をまとめると、普段から収益力がある企業は、退職給付引当金繰入費用が増えても繰延税金資産計上の効果により、ある程度損益への影響が抑えられます。 一方で、収益力が弱い企業は、繰延税金資産が認められないために当期損益への圧迫幅が大きくなります。退職給付費用は増える、税金費用の調整もない、往復ビンタです。 強い企業ほど傷が軽く済み、弱くなるほど容赦なく損益が悪化します。
今回の金利低下による退職給付引当金の増加がリトマス試験紙になるといったのは、このことです。 PERやPBRといったファンダメンタル指標への影響度合いも変わってきますから、株式投資をするに当たっても重大な影響が出るのは言うまでもありません。
しかし、それにしても、金利低下という自力ではどうしようもない事象によって損益がこんなにも影響を食らう(そして株価にも影響しかねない)というのは(税効果の恩恵が受けられずに影響が拡大するのは企業自体の弱さのせいであるとは言っても)、企業経営者の苦労も大変なものだと思わされます。
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会計
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[ 2016/06/19(日) 00:03 ]
[ 最終更新:2016/06/19(日) 00:03 ]
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