NHK Eテレで放送される「オイコノミア」の9月28日放送回にて、保険の話がテーマとなっていました。 オイコノミア「ホントに必要?保険の経済学」
芸人の又吉直樹氏とゲストでミュージシャンのROLLY氏に、保険の基礎を解説しています。
・不安に思っていることに対して経済的に備えるのが保険 ・「貯金は三角、保険は四角」という言葉 ・保険料は平均値を元に決められているので、保険に入ってほしくない人(リスクの高い人)にとっては割安、保険に入ってほしい人(リスクの低い人)にとっては割高。高リスクの人だけが入ることにもなりかねない問題がある(逆選択) ・逆選択を回避するためにスクリーニングがある ・保険に加入したことで、リスク発生の回避行動が疎かになることがある(モラルハザード) →給付制限などによる対策 内容はこんなところで、まず保険の基礎中の基礎としてオーソドックスなところを押さえてきている感じです。
番組中に、又吉氏のための保険プランを考えるということで、ライフネット生命の出口治明氏が登場していましたが、ここでもきちんとつぼを押さえた指摘がなされています。 まず、又吉氏のように家族がいない場合は、死亡保障はなくてもいいと指摘して生命保険をカット。 そして、医療保障についても「高額療養費制度により負担が抑えられる」ことを説明して、医療保険もカットしてしまっています。 保険会社の社長がテレビ番組に出てきて、自社の商品を「あなたのような場合にはこれこれの理由でこれは要らない、これも要らない」と切り捨てていくのです。保険について知見が多くなかった人にとってはなかなかに衝撃的かもしれませんが、それだけに(理由も真っ当なものがついていますし)納得させられるのではないでしょうか。
国営放送でこういった保険の原理や取捨選択(特に「捨」とその理由)について解説するのは、リテラシーを高める意味で意義のあることだと思います。 特に、社会保険制度(健康保険の高額療養費)との連関を指摘している点は重要です。民間媒体では困難であろうという点、社会保険の存在価値を啓蒙する点、これら両点に鑑みて、国営放送で触れたのは意義あることでしょう。 また、ROLLY氏の普段からやたら色んなことを不安がって苛まれているという習性がフューチャーされていましたが、ここにも「何でもかんでもリスクと見て保険で備えてたらきりが無いから割り切りも重要だよ」という暗喩が見える……と考えるのは穿ちすぎでしょうか(^^;
一方で、もう少し突っ込んでもよかったのではないかと思う点もいくつかありました。
・せっかく逆選択とかスクリーニングに触れたのですから、スクリーニングを全くしない(「誰でも入れます」と謳っているような)生命保険はどういうことになるのか…という説明もあってよかったのではないでしょうか(高いリスクを引き受けるのだから、保険料も極めて高くなったり、支給要件も制約がきつくなったりする)
・貯蓄性のあるとされる終身保険や養老保険、あるいは生存祝い金などといったものがある保険について、一見お得感があるけどコストの構造の仕掛けを分析すると……といった話はどこかに盛り込めなかったでしょうか。
・出口氏は又吉氏に生命保険や医療保険を不要としつつ、働けなくなった場合のリスク(又吉氏自身が挙げた)に備える商品として就業不能保険を紹介しています。又吉氏はたぶん自営業者でしょうからそれでよいのかもしれませんが、折角医療保険のところで高額療養費制度を紹介したのですから、こちらでも「会社員なら健康保険の傷病手当金や労災保険の傷病(補償)年金、障害厚生年金などである程度備えられる。会社員でなくても障害基礎年金はある」という説明はあってもよかったのではないでしょうか。(なお、又吉氏のようなタレントの場合中退共小規模企業共済に加入できるのかどうかが気になります。加入可能とすれば、廃業せざるを得なくなったら共済金が出る可能性がありますから、ある程度は備えられることになります) ただし、社会保険の各制度の保障対象と保険会社の商品に所定の就業不能とは一致しないので、必ずしも社会保険制度があるからといって保険会社の商品に加入不要とは限りませんが、少なくともある程度比較・検証することは必要でしょう。 ただ、45分という放送時間の枠を考えると、全部取り上げるには枠が足りない可能性はあります。
いずれにせよ、保険について基礎知識を提供するのは中々の良番組だったことは確かです。 今回見逃した人は、30日(29日深夜)0:30から再放送がありますので、見てみることを薦めたいと思います。
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