改めて言うまでもなく、いまや米国はじめ海外上場証券へのアクセスが加速度的に改善している状況にあります。 特定口座対応の進捗や手数料の引き下げが進んできたり、「スマホ証券」の登場などもあって、取引手順も税務処理も費用も格段に楽になっています。 米国株には配当利回り・配当成長が大きな銘柄も多いことが知られており、こうした点に着目した投資も根強い人気を博しています。 また、米国ETFは国内上場ETFより格段に流動性が高く、経費率も極めて低いことから、(超低コストインデックスファンドの登場により嘗てほどの絶対的な優位性まではないとしても)インデックス投資の一手法としての人気は未だに高いものがあります。
さて、米国株・米国ETFへの投資を行うにあたって、大きな泣き所が配当課税であることはよく知られています。 すなわち、日本の居住者の場合、米国で源泉税10%を徴収された後、日本国内での課税にも重ねて服することになります。 無論、外国税額控除の制度により海外での税額を取り戻すことはできるとはいえ、そこには限度額が設定されているため、米国で徴収された税額のうちごく僅かしか戻ってこない場合もあります。
高配当株であれば当然徴収される金額も大きくなってしまいますし、インデックス投資としてETFを利用している場合でも(ファンド内での利息・配当が分配金として有無を言わさず出てきてしまうため)二重課税を取り戻せないとなると無分配投信と比べて税金分だけ下振れ圧力が掛かり続けることになります。 このような状況が長期的に続くと、パフォーマンスに与える影響が見過ごせなくなってきます。
そこで、少しでも二重課税の取戻しが増やせるような策をご紹介したいと思います。
策といっても、大して難しいことをするわけではありません。 英国の高配当株を購入する、ただそれだけです。
なぜそれが外国税額の取り戻しを増やせることになるのか、それは外国税額控除限度額の算式にからくりがあります。 外国税額控除の限度額は、(1)全世界所得に基づいて計算した国内税額に、(2)海外源泉所得を掛けて、(3)全世界所得で割ったもの、という数式で求められています。 つまり、外国税額控除の限度額を増加させるためには、(2)海外源泉所得を増加させればよい、ということです。むろん、国内で圧倒的に稼ぎを増やして、(1)国内税額を大幅に増やすということでも控除限度額は上がるかもしれませんが、そう簡単に所得を増やせる人ばかりでもないでしょう(^^; さて、ここでの計算ですが、問題になるのはあくまでも「海外源泉所得」であって、「米国源泉所得」でも「中国源泉所得」でも「ブラジル源泉所得」でもありません。具体的な国名は関係ありません。 どういうことかというと、実際に課税された甲国とは別の乙国から得た所得であっても、甲国の税を取り戻すのに利用できる場合がある、ということです。
例えば、所得総額が500万円で、所得控除(基礎控除、社会保険料控除ほか)が合計200万円。所得総額の中に、甲国源泉の60万円、乙国源泉の40万円があったとします。 この場合、所得税は(500万円-200万円)×10%-97500円=202500円となります(全て総合課税とした場合)。 そして、所得税における外国税額控除の限度額は、202500円×(60万円+40万円)÷500万円=40500円となります。 この40500円は、甲国での税額にも乙国での税額にも区別なく当てることができます。どちらでどれだけ取られたかは一切関係ありません。
このことを踏まえると、英国株というのは非常に都合の良い特性を備えています。すなわち、You may get a dividend payment if you own shares in a company.
You don’t pay tax on the first £5,000 of dividends you get in the tax year (from 6 April to 5 April the following year). Tax on dividends (Gov.uk) ということで、5000ポンドまでの配当金には英国での課税がありません。 しかし、英国で課税がされていなかろうが、これは紛れもなく海外源泉所得ですから、米国など他国源泉の所得と合算して、外国税額控除の限度額計算に反映することは可能です。 従って、控除限度額を押し上げるのに貢献し、しかも自らその限度額を消費することは(英国で課税されていない以上)ない、というまことに好都合な現象が起こることになあります。 結果として、ここで増えた限度額をそのまま米国株などに流用し、米国で徴収された税額をより多く取り戻すことができることになります。
こういう、海外各国での現地税率の差に目をつけ、低税率の国での所得を高税率の国で取られた税の還付に利用するという手法を、国際租税法の世界では「外国税額所得限度額の彼此流用」と呼んでいます。 近年、法人税法においてはこれを制約する立法措置が講じられていますが、個人の所得税においては現段階で特段何もありません。
以上のような理由で、英国株を保有して配当を受領していると、それをしていない場合よりも米国株・米国ETFの配当源泉税をより多く取り戻すことができることになります。
残念ながら英国のロンドン市場には日本のネット証券から直接アクセスすることができませんが、ニューヨーク市場で取引されている英国株のADRにであれば米国株扱いでネット証券から投資することができます。(ADRでも中身は英国株ですから、米国の税制ではなく英国の税制に従うことになり、海外源泉税は徴収されないですみます) なお、投資対象銘柄ですが、当然高配当銘柄が望ましいことになります。そこで、例えばVangurd International High Dividend Yield ETF【VYMI】の組入銘柄を上位から順に見てみますと、以下のような銘柄が挙げられます。(配当利回りは5月5日現在、SBI証券のデータより)
HSBC Holdings plc【HSBC】 配当利回り7.13% British American Tobacco plc【BTI】 配当利回り3.15% BP plc【BP】 配当利回り6.99% Royal Dutch Shell plc Class B【RDSB】 配当利回り6.94% GlaxoSmithKline plc【GSK】 配当利回り5.96% AstraZeneca plc【AZN】 配当利回り4.57% Unilever NV【UL】 配当利回り2.77% 私もこの銘柄のうち、BPとAZNを除いた5つを最近になって保有しています(BPを除いたのはエネルギーセクターでRDSBと重なるため。AZNを買っていないのは、購入時はULの方が上位で、銘柄数や資金との兼ね合い上ULまでだった)
なお、配当が増えることで、国内での課税も当然増えてしまうことにはなります。しかし、それは運用効果そのものも大きくなる(高配当株ですから運用としても基本的に有利なはず)ということで納得することはできるでしょうし、ふるさと納税の枠の拡大として捉えてもよいでしょう。
英国株を利用して、外国税額控除枠を増やして米国の配当課税を取り戻そうというお話でした。 ※重要な注意事項 ・株式の保有が増えることになるので、単純に追加投資とするのならリスク許容度に注意しましょう。 ・重要な役割を果たす英国株の配当利回りも保証されたものではありません。予想外の減配・無配などの可能性はないとは言えないことを忘れずに。 ・税制は日本・英国ともに変更になる場合があり、こちらの不利益になる場合もあります。特に英国の税制改正は意識的にチェックしないと情報に接せないので注意しましょう。
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