CFA協会の主催するiDeCoにおける顧客本位の原則(Investors First)というセミナーを聴講してきました。
この協会のセミナーは、CFA(認定証券アナリスト)や業界の中の人向けのものも多いようですが、今回のイベントは私も利用している個人型DCに関するものである上に、参加対象として「個人投資家(含むブロガー)」などと書かれており、こうなれば参加しないわけにもいかないというものです。 さらに、講師のうち一人は日経新聞の田村正之氏ということで、これもまた参加を後押しします。(ほかにコンサルタントの牧村博一氏)
当日は、50人程度の会場だったでしょうか、座席はほぼ埋まる感じでしたから関心はそれなりに高かったようです。
以下、講義の内容を記録します。
田村正之氏パート 「個人型年金のフィデューシャリーデューティーについて」という副題のもと、主に運営管理機関などに求められる加入者への情報提供や教育などでまだ行き届いていない点を指摘する感じの内容でした。
・運用商品については、制度に光が当たり注目が強まったことにより改善が見られる(「日光消毒効果」)。信託報酬のより低い商品のラインナップ登場など。
・古いプラン(運営管理手数料や信託報酬が高い)に加入中の人に新しいプランの紹介・乗換え推奨などの情報提供をきちんとしているか。金融機関によって差がある。
ラインナップを一新させた運営管理機関は、三菱東京UFJ銀行や野村證券など、昨年以降の制度改革に合わせて数多く現れており、旧プランは従前の加入者向けのサービスは継続しつつ新プランと並存する(新規加入は新プランのみ)というのが多くなっています。 この場合、新プランに乗り換えたほうがコストや運用商品から見て有利な場合が多いのですが、自動では切り替わらず加入者の申請が必要となり、そのための情報提供がきちんとなされているのかどうか、ということです。
・運営管理手数料の安さをアピールの前面に出している傾向があり、信託報酬にあまり触れられていない。
試算してみると、管理手数料が最安のところと最高のところとでも30年加入して16万円程度しか変わらない一方、信託報酬で最安のものと最高のものとを比べると30年で130万円もの差(MSCIコクサイのインデックスファンドに月額23000円投資、年率4%の運用となった場合)になるそうで、それだけ信託報酬のほうが成果への影響は大きいということです。 「管理手数料は安いが信託報酬が高い」という事例については当ブログでも取り上げたことがあります。 損保ジャパン日本興亜AMの直販DCは見かけ上の低コストで客を誘い込むスタイル?
・元本確保型の預金のペイオフについて周知されていない。ペイオフになるとDC内部と一般の預金口座とが合算されて保護される上、DCより一般口座の方が優先されるので、DCが保護されない可能性がある。
・加入時の書類記入のサポート。機関によってはネット上で記入がほぼ完結でき、非常に簡単になっている。不備による差し戻しなどを減らすためにもこの点のサポートを。
いわゆる「不備軍」問題ですね。 ただ、事業主が記入・押印する箇所で間違いをやられるとどうにもならず(実際にツイッターで見かける不備軍もそこが不備の原因だった事例も相当あるようです)、運営管理機関が加入希望者に向けてサポートを提供するだけでは限界がありそうです。 加入者のマイナンバー及び事業所の法人マイナンバーを経由して、厚生年金保険やDBなどへの加入状況を集約するような仕組ができれば、更に不備の要因を潰せるような気もします。
・個人型の場合、加入したら放置。投資教育などの機会が企業型に比べ手薄。せめてアセットアロケーション、アセットロケーション、リバランスなどの基本的概念については教育の機会を。
・所得控除の効果をやや大きめに宣伝している傾向がある。住民税込みで掛金の30%分の減税効果を見込むようなシミュレーションが書かれていたりするが、そんなに高所得な人はあまりいない。
年収ベースで500万~600万程度でも15%の税率にしかならず、これ以下の所得の人が全体の6割~7割もいるそうです。 私も15%と20%の境界線あたりで、30%の税率に行く見込みはまだ当分なさそうです。
・所得控除の成果が自然に残っていくような錯覚を与えていないか。年末調整や特別徴収減少の中に紛れて発生するに過ぎないので、気づかずに消費してしまい後には何も残らない…などということになるリスクがある。別口座で積み立てて残しておく必要性などを知らせるべき。
・受給時に税金が掛かったり、年金受給だと国民健康保険料などにも影響する可能性があるが、そういった受給時の制度の知識や最適受給プランの考え方なども知らせるべきでは。あまり難しくすると加入者を遠ざけたりするので微妙なところだが、「受給時にも優遇があります」だけの安易な説明ではいかがなものか。
もっとも、公的年金額や運用利回りの条件設定などによって最適解も如何様にも変わってくるでしょうし、そもそも税制や社会保険制度なども遠い将来の受給時までにどう変わるかもしれませんから、最適解そのものを求めるのはあまり意味もないかもしれません。 ただ、そういった考慮すべき問題があること自体の認知、そしてシミュレーションを随時行えるだけの各種制度の知識などは持てるようにしておいてしかるべきでしょうね。
牧村博一氏パート 牧村氏は、企業型の運営管理機関に勤務した後、コンサルとして独立して企業型DCの導入関連の業務を受託しているとの事です。 そのような経歴から、話は企業型、特に「選択制DC」を個人型と対比するような話が中心でした。
・企業型DC導入の案件の受注は現在かなり多くなっている。ただ、導入までに半年程度掛かるので、新規加入者数・新規事業所数として実績が出てくるのは秋くらいになる。
・選択制DCとは、前払い退職金として現金を受け取るか、DC拠出金として事業主掛金を出してもらうかの選択をする仕組である。「給与かDC拠出金か」という選択では本来はない。
・選択式DCの利用ニーズ類型の一つとして、「擬似職域個人型」としての利用がある。職域個人型はあくまで個人型DCなので、従来はDBがあると導入できなかった(「DB+個人型DC」は不可だった)が、選択式DCは企業型DCなので、「DB+企業型DC」として採用可能だった。
DBと個人型DCの併用が可能になったのでこのような類型は必要なくなるはずだったが、実際には限度額の違い(企業型DCにした方が大きな拠出金が可能)やコストが企業負担にできること等から、未だニーズはなくなっていない。
個人型の掛金限度額を大きくすればよかったのだが…という指摘があり、それには同意です。企業型と個人型とで差を設ける必要性も別にあるわけではありませんし…
・選択式DCのもう一つの類型として、「擬似マッチング拠出」としての利用もある。もとから企業型DCのある企業が、更に給与の一部を前払い退職金に振り替えた上で選択式DCの掛金に充当できることにする。こうすることで、この選択式部分が実質的にはマッチング拠出に相当する。通常のマッチング拠出だと事業主掛金までしか加入者は拠出できないが、そうした制約を回避できる。
・選択式DCのメリットとして、所得税・社会保険料が軽減できるという点、管理コストが企業に負担してもらえる点が挙げられる。
・ただし、報酬の減額により厚生年金やその他の給付金の額が減少するデメリットもあるため、税・社会保険料減少だけを前面に出すべきではない。選択式DCについてコンサルティングする者は、そうしたデメリットについても試算・提示するべき。
もっとも、田村氏の補足情報によると、報酬減少による給付金減少を考慮しても、税・社会保険料負担減少のメリットの方が計算上は勝る場合も多いそうです。 ただ、個人型の節税効果相当額と同様、そのメリット分を手元に残さず費消してしまって後には何も残らない…というリスクが高いため、注意が必要との事です。 なお、最近は厚生労働省も選択制DCにはなにやら警戒感を示す向きもいるらしい…との情報もあるそうです。
・選択制を含む企業型DCには、「投資教育が企業の努力義務である」「企業が運営管理機関の選定・評価(場合によっては乗り換え検討)を行う」「企業が加入者への忠実義務を負う」などのガバナンスとしての特徴がある。
・個人型DCには、金融リテラシーがないとメリットを理解したり、うまく活用することが困難だという問題があり、普及への難しさがある。更に、金融機関にとっても薄利なため営業にも限界がある。これに対し、企業型は企業の制度として、制度の準備や教育などを行い、効率的に普及できる面がある。
実際に、「運営管理手数料の安い機関を選ぶ」以前の段階で、「自分の金を預けるのに手数料を取るとはけしからん」などと主張して加入を沙汰止みにする人もいるそうです。 また、田村氏が実家の親戚に加入を勧めると、「そんな有利な制度が本当にあるわけがない」と言われるとか(^^; こうしてみると、リテラシーを持っておくということは機会を利用する上で非常に重要なことだとしみじみ感じます…
企業型・特に選択制については接する機会がなかった分野なので、個人型と対比されるとそれぞれの制度の特徴や長短などが分かりやすく、聞く価値があったと思います。
|