SBI証券と楽天証券が、確定拠出年金の運営管理手数料のうち自社の取り分を無条件で無料(国民年金基金連合会・事務委託先金融機関の取り分合計167円は別途掛かる)にすることになりました。 SBI証券はiDeCoの手数料がみんな0円に!【5/19(金)から】 iDeCo運営管理手数料改定!条件なしで誰でも0円に! 両社ともに所定の残高以上を条件として無料とされており、更に期間限定キャンペーンとして無条件で無料となっていましたが、今回の改定によりそれらの条件・期限がなくなったことになります。 無条件・無期限で運営管理手数料無料(167円)になるのは、スルガ銀行に続いて2・3例目となります。報道によっては、なぜか、「無条件で無料になるのは業界初」と紹介しているものもあるようですが、スルガ銀行は何年も前から無料ですから、明らかな誤りです。
運営管理手数料は掛金から天引きされてしまいますから、(最終的には所得控除の効果で取り戻せるとはいえ)非課税での運用に回らなくなってしまいDC口座内のパフォーマンスを抑制してしまうのは困ったものでした。しかも、掛金の上限が12000円~68000円と限られているだけに、率的にも無視できません。 それだけに、ここが確実に無料(167円)になるのはパフォーマンスを大きく改善させることが確約されることになり、極めて加入者に有利になってきます。
無条件無料の先達であったスルガ銀行は、ラインナップされている投資信託の信託報酬が全体的に割高なきらいがあり、トータルでは必ずしも有利かどうか微妙なところでした。 これに対し、今回のSBI・楽天の両社は、ともに運用の中核たるべきインデックスファンドはほぼ最低水準のコストのものが全資産クラスにわたって揃っており、そのほかバランスファンドやアクティブファンドなどにも優良なものが並んでいて、運用機能において申し分ありません。
これにより、もはや個人型DCにおいてSBI証券と楽天証券以外を選択する合理性は無くなったと言っても過言ではないでしょう。 運用手数料が無料で初めて土俵に乗れる、もはやそういう状況です。
どちらの口座を使うか? 現段階で、手数料無条件無料・ラインナップ万全となっているSBIと楽天のうち、どちらを選ぶのがより良いかまとめてみます。 今までは無料となる条件が異なっており、キャンペーンが終了したときのことを考えると必ずしも同列に並べることができませんでしたが、もはやほぼ横一線の条件で比較が可能になります。
オーソドックスなインデックス運用 個別の資産クラスのインデックスファンドを1本のみまたは複数組み合わせて運用するという場合、これはどちらの会社を選んでもほぼ優劣はありません。 いずれのラインナップにも、ほぼ最低コストのファンドが並んでいます。(細かく見ていけば、先進国債券は楽天が低コスト、先進国株式はSBIが低コスト…などと僅かずつ差異はありますが) もはや、「三木谷氏と北尾氏とどっちが好きか」くらいのことで決めてしまっても特に問題はなさそうな気がします。
少し捻りを加えたインデックス運用 SBI証券だとやや独自のインデックスがありますので、より自分なりの工夫を加えた運用が可能になります。
例えば、exe-iグローバル中小型株式の活用。 ポートフォリオに所謂「小型株効果」を織り込むことができます(但し、「小型株効果はない」という研究もあるらしいことに留意)。 また、例えば「三井住友DC日本株式インデックスファンドS:8.5%」+「DCニッセイ外国株式インデックスファンド:68%」+「三菱UFJDC新興国株式インデックスファンド:8.5%」+「exe-iグローバル中小型株式ファンド:15%」という編成で、全世界の大型株・中型株・小型株を含めた擬似VTというべき構成を実現できます。(信託報酬は0.261%程度) 私も株式クラスではこの構成を取っています(他にREIT・債券も若干ずつ持っています)。新興国株式にやや高コストな三菱UFJを使っているのは、先進国がMSCI指数であるため、それに合わせるためです。exe-iの中小型株の参考指数はFTSEのスモールキャップ指数ですが、スモールキャップの基準はMSCIもFTSEも時価総額下位概ね15%程度でほぼ同様なため、ラージ&ミッドキャップの中をMSCIに統一しておけばほぼ問題ないはずです。 なお、exe-i先進国株式+exe-i新興国株式という組合せにすればFTSEで統一できる(その上コストも下がる)ようにも見えますが、困ったことに両ファンドの中にあるETFが小型株を含んでいたりいなかったりするため、exe-i中小型株との間で中途半端に小型株が重複してしまいます。
他に、iFree NYダウインデックスの存在もあります。 米国株の優位性を強く信じる向きは、これで米国株一点張りなどということもできますし、そこまで極端でなくとも米国比率の上積みを柔軟に行うことができます。(但し、今後数十年の長期の運用期間に亘ってそのような優位性が継続するのかどうかは何とも言えません)
楽天証券のほうには、インデックスファンドでは良くも悪くも王道商品しかないため、独自性を出すことはしにくくなってしまいます。
バランスファンド1本でほったらかし運用 このようなスタイルでも、SBI証券に分がありそうです。
SBIでは、昨年4月から日興DCインデックス・バランスをラインナップしており、日本・先進国の株式・債券という4資産に0.2%内外の信託報酬で投資できるようになっています。 さらに、新興国やリートまで含めたい場合でも、最近になってiFree8資産バランスが追加され、0.2484%の信託報酬でほったらかし運用が可能になります。
楽天証券だとバランス運用に使えそうなのはセゾンバンガードグローバルバランスファンドくらいになりますが、信託報酬が0.68±0.03%程度と、やや不利なのは否めません。 他には動的配分タイプのものもありますが、「高値買いの安値売り」になったりしないか、あるいは現金比率が高すぎて機会損失を抱えないか、等々不安要素も多く微妙です。
なお、バランスファンドは資産構成がリスク許容度や目標リターンなどに照らして許容範囲なのか等についてもコストと並んで検証が必要なので、そこはご留意下さい。
アクティブ運用 運用期間が数十年の長期に及び、コストの影響も大きい上にファンドの運用担当者も何世代か交代することになるであろうDC運用では、基本はコストが低く運用担当者の能力に大きく依存しないインデックスファンドが中心になるものではあると思います。
その上で、それでも優秀なアクティブファンドを信じ超過リターンを追い求めたい、という向きには、セゾン資産形成の達人ファンドを擁する楽天が若干優位に立っているかと思います。
SBI証券はというと、こちらにもひふみ年金&SBI中小型割安成長株ファンド ジェイリバイブ<DC年金>といった飛ぶ鳥落とす勢いのファンドを擁しています。 ただ、これらはいずれも日本株ファンドであり、これだけだと地域分散という意味では難があります(ただし、ひふみは米国株に進出するとかしないとかいう話が流れてはいます)。 足元でひふみ系列の純資産が異常なまでに膨らんでいると言われていることから運用難によるパフォーマンス低下の懸念がある事も留意すべき材料ではあるでしょう。 ここに海外株式のファンドを加えるとすると、朝日Nvestグローバルバリュー株オープン(Avest-E)あたりになるでしょうが、このファンドはかつては優秀なパフォーマンスを出しているファンドだったものの、最近数年は凡庸な成績に落ちていると言われており、どこまで期待してよいやら…… ほかに、日本含む全世界に投資するキャピタル世界株式ファンドなどというのもありますが、MSCI ACWI指数と比べて特に秀でているわけでもないようです。
日本株だけでいいのか、世界分散するのか、という思想次第な面もありますが、基本的には楽天のセゾン達人で全世界市場の成長を取りに行けるほうが優位な気はします。
運用以外での競争の可能性 楽天とSBIでは、現時点では、受給方法においてなお差異が残存しています。 すなわち、SBI証券では年金受給と一時金受給とを併用することができず(但し、年金受給開始5年後以降に残資産を一括受給することは可能)、また年金受給の期間も5年と10年の二択になっています。楽天証券では年金と一時金の併用も可能で、年金は5~20年の好きな年数を設定できます。 受給方法の選択肢が狭いのは単純にウィークポイント以外の何物でもありません。しかも、手数料においても運用機能においても絶対的な最高水準で拮抗することになった以上、今後はこの面における差異が運営管理機関選択時の注目点として一層クローズアップされてくる可能性があります。 加入者・これから加入する人は、現実に受給するようになるまではまだ長い期間がある人が多いでしょうから、将来的な機能改善の可能性を見越してSBIに加入することも選択肢としてありますが、やはり幅広い選択肢が確実に手に入る楽天の優先度が上がってしまうとしてもやむをえないところです。 SBI証券は、早急にこの面においても楽天証券と揃えておいたほうが良いのではないかと思います。
そのほか、両社ともにポイントサービスを持っていますから、そことの連携も競争材料としてありうるかもしれません。 資産残高比例で、あるいは定額で加入者にSBIポイントや楽天ポイントを付与するようなサービスがもしあれば、未だに残っている連合会&事務委託先金融機関の取り分167円の負担をも相殺することができることになり、より加入者を誘引できそうです。SBIポイントはキャッシュバックを経て、楽天ポイントは直接、投信での再運用に回すことも可能になるだけに、加入者にとっても効果は絶大でしょう。
手数料という最も基礎的な部分において無料という最も良い形で条件が並んだため、その他の部分での競争がより重要性を増し、厳しい選別の目が向きそうです。 ぜひとも利用者の利益が増進する方向に加速していってもらいたいところです。 そして、SBI・楽天の2社にばかり任せ切りにするのでもなく、他の運営管理機関もまずは手数料無料の土俵に上がってきてもらい、対等の立場で競争を刺激してください。
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