過去の記事にて紹介した「高金利」外貨定期預金につき、後日談が出ています。 【後日談】年利4%ドル定期預金の結末は? (ごきげん手帖)
前回の試算では為替を預入時も満期時も105円で一定としていたところ、円ベースでは損失が出てしまうという誠に喜ばしからぬ予想が立ってしまったところでしたが、豈に図らんや、実際には110円程度まで円安進行。 結果、300万円スタートで成果は28,587.66ドル(=9,529.22×3)、1ドル(110-1)円として3,116,055円という結末になりました。
損失を回避するどころか、僅か2ヶ月にして元本に対し3.87%もの利益を叩き出すとは、結果だけを見れば目を瞠る成果であり、誠に御同慶の至りです。 そう、結果だけを見れば。
この結果に接した当のご本人は、定期預金とはいえ為替手数料で資産が目減りする可能性がある事を伝えた時は、
「もう絶対やらない!」
と言っていた知人ですが、嬉しそうに
「かなり利子がついたよ!」
と言っていた という調子で、どうやら、この運用は利益を生んだ有利な運用だとの認識のようです。
しかし、実態を検証すると、明らかに損失を出している不利な運用であるということを正しく理解しなければなりません。
鍵になるのは、前回も比較対象として出した、住信SBIネット銀行のドル定期預金です。 住信SBIネット銀行のドル預金だと、100万円スタートで2ヶ月の満期時には9,520.18+17.77=9,537.95ドルになるのでした。300万円スタートであればその3倍、28,613.85ドルです。 これを円転すると、28,613.85×(110-0.04)=3,146,379円となります。
件のメガバンクの商品とこちらの住信SBIネット銀行の商品とでは、期間も同じなら背負っているリスクもドル円の為替変動リスクという全く同一のもの。従って、完全に代替的な選択肢といえます。
厳密には、金融機関に対する信用リスクも負っていますから、メガバンクと住信SBIネット銀行との倒産リスクの差も考慮する必要があります。 その中で、住信SBIネット銀行を選んでいれば3,146,379円の成果が得られたものを、メガバンクを選んだばかりに3,116,055円の成果しか得られていません。 同じリスクで同じ期間運用した結果、3万円程度少ない成果に甘んじるのですから、このメガバンクのプランによって3万円損していると評価すべきです。
「何と比べて評価するか」で運用の良否の判断が大きく変わってしまう好例です。
絶対的には確かに大きな利益を叩き出しているだけに、「実は損をしている」というのは直感に反すること甚だしい話ではあり、運用として成功なのか失敗なのかを見誤りやすい落とし穴といえます。
アクティブ運用でも、ベンチマークとの比較が重要であることはよく知られています。 基本的には、代替的投資手段となりうる、リスク&リターンの特性が同等の資産を対象とするインデックス(例えば、国内株式運用であればTOPIXやMSCIジャパン、世界株式運用であればMSCI ACWIやFTSEグローバルオールキャップ)と比較して劣後しているようなら、(わざわざ銘柄を絞ったり入れ替えたり面倒な手間とコストを掛けるのでなく)素直にインデックス運用しておればよかった、という評価になることになります。 見かけ上で利益が出ているかどうかは、選択の正しさを判断する上では、実は直接関係ありません。
自分の選んだ運用は成功だったのかそうでなかったのか。儲かっているようでも、本来得られるべき更なる成果を取りこぼしていないか。「適正な比較対象と比べて評価する」視点を持つことを忘れてはいけません。
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