投資をするにせよしないにせよ、税制との付き合いは経済活動をするに際して極めて重要なのは言を俟ちません。
例年、税制改正の話題が出るたびに盛んにその影響の分析・研究がなされますが、ここできちんと概要を押さえられるかどうかが、いかに対策を講じてその後のコストを抑制できるかを左右します。
ここで、個人において研究対象となるのは多くの場合所得税でして、これに足元の時期は消費増税&軽減税率が重要トピックとなるところです。 通常の個人は、大抵の場合、それで十分でしょう。
ただ、個人でも特定の類型に属する場合は、中長期的には消費税でも別のポイントに留意することが必要になる場合があるかもしれません。 特定の類型とは、不動産(太陽光含む)投資家などの場合です。
不動産投資家の場合、年間収入が1000万円に満たない見通しの場合免税事業者になるという戦略がとられることがあろうかと思います。 この場合、収入は8%の消費税を含めて入金される一方で、納税する必要がないので、その分利回りが良くなるというメリットがありました。いわゆる益税です。
土地や住宅の賃貸借はそもそも消費税非課税なので、このような問題は生じません。駐車場設備や倉庫・事務所などが賃貸物件となる場合や、太陽光発電などの場合が対象です。
なお、免税事業者の場合は修繕費などに対する仕入税額控除も利用できないため、必ずしも益税の額がそのままメリットになるわけでもありません。
ところが、将来的にはこのような益税を得ることは難しくなるかもしれません。 キーワードは「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス方式)です。
これは、平成35年(2023年)10月から始まるもので、登録した課税事業者しか発行ができない適格請求書に基づいた仕入でなければ、買い手は仕入税額控除をすることができない、という制度です。 言い換えれば、免税事業者からの仕入は、消費税と称する金額を払っていたとしても、仕入税額控除ができません。従来は、免税事業者からの仕入であろうと仕入税額控除ができました。 こうなると、もし貸主が免税事業者であった場合、借主としてはそれまでと同じ金額を払っていたのでは、今までできていた仕入税額控除ができなくなる分、コスト増になってしまいます。(法人税・所得税の方で損金・必要経費に回せるかもしれませんが、実効税率相当分が回収できるにとどまります) となれば、当然、課税事業者になって適格請求書を発行するのでなければ、消費税相当額分だけ値下げを要求されることも覚悟する必要があるかもしれません。 結果として、不動産投資の利回りを下押しすることになる可能性があります。
もとより、税制改正について注意を払うことは投資家として基本中の基本です。 とはいえ、消費税という税分野、それも税率変更とは関係のない部分の改正が利回りに影響を及ぼしてくるのは盲点になるかもしれません。 気が付かないままだと予想外の減益になってしまうことにもなりかねませんから、計画を立てる際には十分留意して織り込んでおいた方がよいでしょう。
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